キャンピングカービルダー比較(その1)で規模がある程度大きなキャンピグカー・ビルダーを全てピックアップしましたが、私たちが購入する場合、その中からキャブコンを製造しているビルダーを選ぶことになりそうです。キャンピングカーはアフターメンテナンスがとても重要とのことで、私たちの居住地関西でサービス拠点があることも条件になります。そうなると選択肢は、ナッツRV、バンテック、アネックスの3社あたりに絞られます。いろいろ調べたり、営業所にお話を聞きに行ったりして分かった各社の特徴をまとめてみます。
ナッツRV
売上高:95億円(2022年12月期)
従業員数:国内200名 海外(中国・フィリピン)400名
本社:福岡県
業界最大手。ある集計ではキャンピングカーの国内生産台数8600台のうち1100台を生産しているとのことで、台数ベースの業界シェア約13%ぐらいになるようです。
■デザインとカッコ良さ重視のDNA
ナッツRVは元々は市販の車に改造を加えた「バニング」と呼ばれるカスタムカーを作っていた会社です。バニングというのは下の写真のような羽の生えたド派手な車のことです。
ナッツRVのキャンピングカーには、こういった車の製造から始まった会社らしいデザイン性重視のDNAが随所に感じられます。使い勝手や利便性が多少犠牲になっても、見た目のカッコ良さを優先する価値観がナッツRVにはあるように思います。
以下の写真は鮮やかなカラーリングが目を惹くナッツRVの主力キャブコンCREAです。車前部の両サイドに吸気口が付いているのが見えますが、これは実は装飾用のダミーのものです。実際の吸気機能はなく、デザインをかっこ良くするためだけにわざわざ付けられています。
左側後部下の収納庫は通常ゴミ入れとして使われることが多いのですが、外観をボディと一体型のフラットにして綺麗に見せるために扉が2重になっています。内側の扉は密閉性のある防水扉なのですが、それだけだと見た目が良くないので、その外側にもう一つデザイン用の扉がついている形です。ゴミ入れとして使う利便性を考えると、2つの扉を開くのは不便で、1つだけのほうが断然いいのですが、ここも利便性を犠牲にしてデザインを重視しているようです。
キャブコンのボディー素材はFRP(繊維強化プラスチック)が使われることが多いのですが、ナッツRVはアルミパネルを採用しています。FRPの場合はこの写真のような全面にカラーリングを施した派手なペイントが簡単にできないことが、アルミパネルを採用している理由のひとつのようです。
アルミパネルのもう一つの利点はFRPと比べて軽量であることです。キャブコンは重心が不安定になりがちですが、軽量化することで横転やタイヤバーストのリスクを下げることができます。一方で、素材の強度自体はFRPより格段に弱く衝突や横転時の衝撃から社内を守る力はFRPよりはかなり下がってしまいます。総合的に考えると、安全性の観点からはFRPのほうが望ましいと思われますが、それでもアルミパネルを採用している点にデザイン重視の姿勢が感じられます。
■急成長の理由・・・バッテリーシステム
デザイン性の高さもナッツRVの大きな特徴ですが、シェアNo.1になった最大の理由は、独自開発の革新的なバッテリーシステムだと思います。ナッツRVがキャンピングカー製造を始めたのは2000年代に入ってからで、キャンピングカービルダーとしては後発会社です。にもかかわらず短期間で大きく成長できたのは、他社が簡単には追随できなかった独自開発の革新的バッテリー急速充電システム「エボリューション」に拠るところが大きいと思われます。
エボリューションはそれまで実装が難しかった大容量のリチウムイオン電池を搭載し、しかもそれを短時間で急速充電することのできるシステムです。これは発売当初は画期的なもので、他社が追随できなかったため一気にシェアを高めていったようです。現在(2023年11月)ではリチウムイオン電池を採用するところも増えてきて、当初ほどの優位性は無いかもしれませんが、今でも最もすぐれたバッテリーシステムであることは間違いないでしょう。
バンテック(Vantech)
売上高:推定 50~60億円
従業員数:85名
年間製造台数:約500台(2023年現在)
本社:埼玉県
1986年設立の老舗キャンピングカービルダーのバンテック。創業者はもともとヨットのデザインを手掛けていた方だそうです。ヨットも移動に使う乗り物(Vehicle)に居住性を持たせたものなので、特にキャブコンタイプのキャンピングカーとは製造ノウハウに共通するところがあるようです。ナッツRVのキャブコンはボディーの外装にアルミパネルを採用していますが、バンテックはヨット等の船舶にも広く使われているFRP(繊維強化プラスチック)を使っています。
■保守的・安全性重視の姿勢
バンテックの社員の方とお話していると、総じて保守的な姿勢が会社にあるように感じます。ナッツRV以降、他社も追随して次々とリチウムイオン・サブバッテリーを搭載していきましたが、バンッテックが搭載を開始したのは他社よりも遅く2023年になってからでした。遅くなった理由は、安全性を重視するバンテックの保守的な姿勢のためではないかと推測しています。
リチウムイオン・バッテリーは設計や施工に問題があると、最悪の場合火災や爆発などの重大な事故につながってしまいます。(実際に2023年初頭にマックレーというビルダーが製造したキャンピングカーのリチウムイオンバッテリーが爆発、火災事故を起こしています)バンテックでは十分な安全性を確保する設計に時間がかかってしまったため、他社より搭載が遅くなったのではないでしょうか。
車内の建具などの設計にも保守的な姿勢が感じられます。他社であればコストダウンのためマジックテープで留めて済ましているよう小さな壁面も、蝶番を使う作り込んだ設計になっていたりします。車内に棚を付加するなどのユーザーからのちょっとした変更の依頼も、バンテックさんの場合は受けてもらえず、自分でDIY工事するしかない場合が多いといった話も聞きました。この辺りも安全性を重視する保守的な姿勢によるものだと思います。
保守的な姿勢はユーザーからすれば融通が利かず不便に思うところもあるかもしれませんが、逆に言うと安心して乗れるキャンピングカーだとも言えます。
■FRP一体成型
FRPをボディの素材として採用しているビルダーは他にもありますが、バンテック以外の会社は複数のFRPのパネルを組み合わせて架装部分全体を作っています。複数のパネルを組み合わせた場合、下の写真のようにどうしても継ぎ目が出来てしまいます。
バンテックのキャブコンは複数のFRPパネルを使うのではなくのボディー全体をFRPで一体成型している点が特徴です。一体成型したボディーは全体として強度が高くなって安全性が増す上、継ぎ目がないので雨漏りなどが起こりにくくなるなどの利点があります。バンテックはFRPを一体成型ができる工場を持っている唯一のビルダーとのことで、下の動画では工場(タイ)の様子が公開されています。
このように利点がとても大きいFRP一体成型ですが、輸送コストが高くなるというデメリットがありそうです。バンッテクではタイ工場で作った架装部分をコンテナに乗せて船便で日本まで運び、山形県の工場でトヨタから仕入れたカムロードに乗せて完成させているそうです。同じFRPでもパネルの状態であれば1つのコンテナに沢山詰め込めるはずですが、成型した後の大きな架装部分はそうは行かないはずです。標準的な海上輸送コンテナ(40フィート)の場合、1コンテナあたり2台しか積めないのではないでしょうか。輸送効率がかなり低く、輸送コストはかなり掛かっているのではないかと思います。
ナッツRVの担当者の方のお話では、もう一つのデメリットとして一体成型で作る場合はボディーのマイナーチェンジが簡単にできないという点があるそうです。
アネックス(ANNEX)
売上高:推定 15~20億円
従業員数:30名以上
本社:徳島県
大阪で1964年に自動車販売・修理の会社としてスタートした会社で、アネックスもナッツRV同様、キャンピングカーを製造する前はカスタムカーを作っていたようです。どちらかというとバンコンが主力の会社ですが、最近ではリバティーシリーズというキャブコンも人気のようで、2022年にはリバティーシリーズ専用工場(生産キャパ年300台)を倉敷に新設しています。
■細部まで作りこむ姿勢
アネックスの最大の特徴はユーザーの利便性を考えて細部まで作り込む姿勢だと思います。下の動画でリバティーの説明をしているのは多分社長さんだと思うのですが、ユーザーから声を集めて改良に反映し、利便性を最大限まで高めようという姿勢が感じられます。
実際にバンクベッド展開やダイネット部分のテーブルを格納してベッド展開する際のやり易さは、3社の中ではアネックスのリバティーが格段に優れています。他の2社のキャブコンはある程度の時間と労力が必要ですが、アネックスはバンクベッド展開もダイネットテーブル格納もワンタッチに近い形で非常に楽にできる設計になっています。
また、各販売店ではユーザーの希望に応じて細かな加工も行ってくれるようです。ここはバンテックと対照的で非常に融通が利くようで、ユーザビリティーを高めようという姿勢が強く感じられます。
■アネックスのリチウムイオンバッテリーは何故か三元系
アネックスのキャブコンで気になるのは採用しているリチウムイオンバッテリーが「三元系」と呼ばれるタイプであることです。ナッツRV、バンテックはいずれも最も安全性が高い「リン酸鉄」と呼ばれるリチウムイオンを搭載していますが、三元系は安全性が劣るとされ、上で紹介したマックレー社の爆発・火災事故も「三元系」のバッテリーによるものでした。
しかも、アネックスの採用している三元系リチウムイオンバッテリーは台湾のSEGL社製のもので、これは事故を起こしたマックレー社が使っていたものと全く同じだそうです。
何故「リン酸鉄」ではなく安全性が低いとされる「三元系」をわざわざ使っているのか?マックレーの事故のことをどのように捉えているのか?等をキャンピングカーショーでアネックスの社員の方とお話する機会があったときに聞いてみました。お答えを要約すると以下のようなものです。
- リン酸鉄では大容量化が難しい
上の表にある通り、安全性の高いリン酸鉄はエネルギー密度が低くなるので、同サイズ・同重量で比較した場合に大容量化が難しくなる。リン酸鉄を採用した場合、従来の鉛バッテリーとあまり変わらない程度の容量になってしまい、リチウムイオン化する意味がなくなる。 - バースト(タイヤの破裂)リスク低減
走行時の安全性を考えると、タイヤの破裂リスクを低減することは大切。リスク低減で大切なのは車の重量を軽くしておくこと。リン酸鉄を採用すると、どうしても重量が重くなってしまう。その点では三元系のほうが望ましい。 - マックレーの事故について
原因ははっきりしたことは分からないが、SEGL社のバッテリーに問題があったとは考えていない。バッテリー部分ではなく電装システムに問題があった可能性があるのではないか。アネックスでは品質が信頼できる電装部品の調達先を見つけることに成功しているので、アネックスの車で同じような火災事故が起こるとは考えていない。(あの事故には正直迷惑していますと言いにくそうに仰っていました)
ちなみにマックレー社の事故を含め2023年に入ってからキャンピングカーの火災事故は少なくとも3件起こっているようです。年初にあったマックレー社の事故は、ユーザーの方がユーチューバーで当初は経緯報告などの動画もアップされていました(現在は削除)。動画にはキャンピングカーが激しい炎に包まれ、バッテリーセルが連鎖爆発していると思われるショッキングな映像が映っていました。事故当時、ユーザーの方2名はバッテリーの上にあるバンクベッドで就寝中だったそうで、爆発音で目が覚め、即座に外へ飛び出たため九死に一生を得たそうです。
他の2件の事故は以下の動画があるようです。
アネックスのキャブコンは細部まで作り込まれている点がとても良いと思うのですが、このような火災事故のリスクを考えると、三元系のバッテリーを積んだ車に乗るという選択肢はあり得るでしょうか?上記のアネックスさんの説明で納得できるかどうかは、人によって判断が分かれそうです。機会を改めてバッテリー問題について、より詳しい記事を書きたいと思います。
ということで、どのキャンピングカー・ビルダーを選べばよいのかな?まだまだ決めるのは難しそうです。